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飼い主さんのひとりごと。(その31) 墓場まで・・・。

みなさんこんにちは。
今日も風ぴうぴうのカザルパロッコです。
今回はちょっとした物語の飼い主さんのひとりごと。
お時間&ご興味がある方はどうぞ♪
それでははじまり、はじまり~。

墓場まで・・・。
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むかしむかしのお話。時代はそうですねぇ・・・、明治時代、ってトコでしょうか。
あるトコロにサスケさんという庭師がおりました。
サスケさんはとっても働き者。元々商才もあったのでしょう。
「メリケン国にわが国のサクラを売るのじゃっ!!」とサクラの苗木とお船に乗ってどんぶらこ、
長い長い旅を終えてニッポンへ帰って来ましたとさ。
船には海賊物語に出てくるような大きな宝箱に砂金の入った袋がぎっしり詰まっていたそうな。



サスケさんはこの儲けを元に事業をどんどんと広げ、造園業を営むようになりました。
そして村内イチバンのべっぴんさんとそれはそれは盛大な祝言を挙げたとさ。
さてさてサスケさんは5人の子宝に恵まれた。
女・女・男・女・女とぽんぽこぽん。みんな揃いも揃って美男美女。
なかでも次女のノブさんは群を抜いてのべっぴんさんだったそうだ。
ある春の日、事業も順調そろそろ隠居を・・・と考えたサスケさん、腕組みしながら考えた。
うーん、うーんと考えた。
唯一の一人息子に庭師の仕事を幼いときから教えたが、人間向き不向きってえものがある。
「こいつあ、どうにも庭師も造園の経営にも向いていねえ。」
そこでサスケさんは自分が使っている一番弟子と二番弟子のタロサとジロサを呼び出した。
サスケ親方の前で膝の上のゲンコツをぎうっと握り締めるタロサとジロサ。
気が遠くなるような沈黙のあと、不意にサスケ親方がキセルの灰をポンッと落として一言。
「おまいら二人で力を合わせてこの店を守っちゃあくれねいかい?」



サスケ親方の話によるとタロサには長女のタカ、ジロサには次女のノブを娶ってもらい
二人で協力し合ってこの店を盛り立てて欲しいということだ。
「タロサ、おめえのそろばん勘定はどんぴしゃりだ。ジロサ、庭師の仕事はおめえの右に
出るものはいねえ。そこでだ、お互いに足りない部分を上手く補い合って行けば
ますます商売繁盛ってもんよ。」
タロサとジロサはわずかばかりの沈黙のあと「親方、身に余るお言葉ありがとうございやす。」
と、首に巻いてある煮〆たような手ぬぐいを慌てて外しながら頭を下げた。
「そうかえ、そうかえ、ありがてえ。」そう言うとサスケ親方はそそくさと居間から出て行った。



一介の庭師から造園業の経営者・・・。
タロサとジロサはしばらくボーっと居間に佇んでおったとさ。
「なあ、タロサ、親方の名に恥じないように盛り立てていこうな。」とジロサ。
「あ?うん、ああ・・・、そうだな・・・。」とタロサ。
あまり乗り気じゃないのか、いや、あまりに突然のことでまだ驚いているのだろう・・・
タロサの生返事をそう解釈したジロサは「仕事に戻らんと。」と居間から出て行った。
タロサはジロサが出て行った後も居間に残って床の間の掛け軸を見つめているようで
その実細い針のような目は別のところを見ていたとさ。
「なんでオイラがジロサと同じ格付けなんじゃ。なんでジロサにノブさんが嫁ぐんじゃ。」



ジロサは村の娘っ子達が振りっ返ってまじまじと見つめるほどのいい男。
紺色に白地で屋号を染め抜いた印半纏に紺股引も爽やかにサクサクと仕事をこなす姿は
見るものをうっとりとさせるほど。
また見目カタチがいい男ってえのは心持ちもええ、ときたモンだ。
ジロサの周りはいつも笑いが絶えないふうわりと温かい気持ちに包まれていたそうだ。
次女のノブも祝言の日をそりゃあ楽しみにしていたという。
「ああ、あのジロサのお嫁さんになるんだねぇ・・・。」
自宅の庭の手入れをしているジロサを遠くに眺めながらノブもうっとりとしておりましたとさ。
そんな様子を柱の影からグッと睨みつける長女のタカ。
タカは普段から妹のノブに嫉妬の嵐。
自分よりも美しい妹、そしてなによりもジロサに嫁ぐのが自分ではなく妹のノブ・・・。



タロサとタカはお互いに相通じるものがあったのだろう。
ある日タカは自宅の裏庭にタロサを呼び出すとタロサの耳元にこう囁いた。
「ねぇ、アンタの友達のハル坊、ノブにご執心だったわよねぇ?」
ハル坊に実はノブがアンタにご執心だと言って騙し、駆け落ちをさせようと言うのだ。
驚きのあまり言葉を失くすタロサにタカは追い討ちをかけるようにまた囁いた。
「親方がアンタのそろばん勘定はどんぴしゃりだって。」
この一言で全てを理解したタロサ、この日から二人は心身共にメオトになったとさ。




時は変わって太平洋戦争の真っ只中、空襲警報が発令された。
縫い物をしていた手をハッと止めたノブ、急いで防空壕へと身を屈めて走り出す。
と、そこへどこかで遊んでいたのだろう、ノブの長男のショウタも慌てて走って来た。
母子手を取り合って防空壕へ逃げ込もうとするも中はいっぱいでもう入れる余地がないと言う。
「私のことはいいからせめて息子だけは入れてくれ。」と懇願するノブ。
「かあちゃん、そんなのイヤだっ!!」と泣き叫ぶショウタ。
「ショウタ、アンタはどんなことがあっても生きなくてはダメなの。どんなことがあってもっ!!」
こんな厳しいかあちゃんの顔を初めて見たショウタ・・・とその瞬間誰かが思いっきり二人の腕を
防空壕の中からグイッと引っ張った。
刹那、ノブとショウタはお互いの手と手を取り合ってもの凄い爆音と熱風を受けて中に浮いていた。熱い風が耳から鼻から目から・・・その時ショウタはなぜか口を閉じていないと死んでしまうと思い必死で閉じた。




時は流れ昭和の高度成長期、ショウタは立派な社会人となった。
ある日ノブに「結婚したい人がいる。」と、美しい人を連れてきた。
その人はまるでノブの若い頃、いや、それ以上に美しい人だった。
そしてショウタは結婚し、三人の子宝に恵まれた。
三人の子供はそれぞれてんちゃん、くうちゃん、まあちゃんと名付けられた。




くうちゃんはばーあちゃんが大好きだ。別に理由なんてない。
ばーちゃんと一緒にいるだけで楽しかった。
この日も縁側に座るばーちゃんのそばで寝そべってクレヨンで絵を描いていた。
「くうちゃんや、ふぃあんせぇって言葉を知ってるかい?」と突然ばーちゃんが訊いてきた。
「ふぃあんせぇ???」くうちゃんは丸い大きな目をくりくりと動かしながら
「外国のお菓子の名前???」と言ってみた。
「あはは、外国の言葉には違いないねぇ。」
そう言ってばーちゃんはお庭のサツキの植木鉢が並んでいる棚をジッと見つめていた。
あの時と同じ目だ・・・毎年行く花火大会の時と・・・。




くうちゃんは毎年夏になるとタマガワというトコロに花火を見に行く。
ばーちゃんが連れて行ってくれるのだ。
川べりまで近づくと「お待ち申しておりやした。」と揃いの印半纏を着たお囃子の一同さんが
ズラッと並んで頭を下げてご挨拶。
「さあさあ、お嬢さん、お坊ちゃん。」と、屋形船に案内されてお囃子を聴きながら花火を見物するのだ。
頭上に上がる大きな花火、火の粉が落ちてきそうでいつも首をすくめながら見ていたっけ。
ふとばーちゃんを見ると川面を、花火が散り一瞬だけ暗くなる川面をコワいような顔で見つめていた。後になってタマガワはばーちゃんの実家があったトコロだと知った。




「ふぃあんせぇってのはね、外国の言葉で恋人や婚約者って意味だよ。」
「ふーん、そうなの。」
「くうちゃんは知らないけどね、ばーちゃんにもその昔ふぃあんせぇって人がいたのさ。」
「えっ!?じーちゃんじゃないの???」
「あはは、じーちゃんはダンナさんじゃないか。ふぃあんせぇじゃないだろ?」
「そっか。じゃあばーちゃんがじーちゃんと結婚する前の話???」
「さあ、どうだったかねぇ・・・。もう大昔のコトで忘れちまった・・・。」

「ただねぇ・・・、」
「ただ???」
「そのばーちゃんのふぃあんせぇって人はくうちゃんと一緒で左利きだったんだよ。」
「へえ~、そうなんだ。」
「おやおや、こんな話をしたってくうちゃんにはまだわからないね。私がタバコを吸っていたのはアンタのお母さんにはナイショだよ。」
そう言うとばーちゃんは憑き物でも祓うようにタバコの煙を手でバタバタさせて裁縫箱を引き寄せていつものように縫い物を始めてしまった。




あれから何年経ったのだろう。
くうちゃんは窓辺に立って左手をお日さまにかざすと死んだばーちゃんを思い出す。
あの時、ばーちゃんは何が言いたかったのだろう・・・。
ふぃあんせぇのジロサさんは戦死したと聞いている。
くうちゃんの家族はくうちゃん以外に誰も左利きの人が存在しない。
ショウタが、くうちゃんのパパがお餅つきの時に杵を左手を上にして持つ以外は。
ばーちゃんはどうしてくうちゃんをいっぱい可愛がってくれたんだろう。
くうちゃんはイロイロな想いを断ち切るようにお日さまにかざした左手をギュッと握り締め
思いっきり深呼吸をする。
そして「ばーちゃん、とうとう墓場まで持って行っちゃったねぇ。」とニヤリとするのであった。




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くうちゃん・・・。

えーっ!?そこっ???

by ruggine | 2012-04-25 03:54 | ひとりごと  

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