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飼い主さんのひとりごと。(その32) 身の丈。

みなさんこんにちは。
今日はどよよん雲に覆われたもわっと陽気のカザルパロッコです。
さあて今回は今年も(←えっ?「も」?)やって来ました♪GW読書祭り♪
お時間&ご興味がある方はどうぞ。
それでははじまり、はじまり~。


・・・の、前に。
♪~♪おことわり♪~♪
前回のひとりごと同様、これらの「よみもの」は妄想大好き&ビックリするくらいド素人の
作家でもナンデモナイruggineさんが妄想に任せるままにサラサラと書いたモノでございます。
よって時代背景による言葉遣いの「?」とか「その時代にはそんなモノなかったハズだよ。」
ってなコトが多々あると思いますが、そこらヘンはおひとつご了承くださいませ。



身の丈。
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クヘエは「分け藤」というお店(たな)の奉公人だ。
「分け藤」なんて洒落た名前がついてるが茶屋でも船宿でもない。
古い壷だとか茶器だとか掛け軸だとか・・・古物(コブツ)を扱うお店である。

噂によるとこの分け藤はある大店のご隠居さんが遊女を身請けをして
その遊女に始めさせたお店らしい・・・ということだ。
らしい・・・というのはみんな本当のトコロ、よくわからないのである。
「まあまあ野暮は言いっこナシにしましょうや。」で、今日まで来ているのだ。
今ではもうそのご隠居さんは亡くなってしまい、
身請けをされたであろうその人が商売を切り盛りしているのだ。
彼女の本当の名前は何と言うのか、これもみんな知らない。
みんなお店と同じ名前の分け藤、分け藤ねえさんと呼んでいる。
分け藤ねえさんは大金持ちのご隠居さんが身請けをしたほどだ。
美人で気立てがよくって・・・でも決して出しゃばらない。
だけど何かひとつぴいんとスジが通っていて
控えめなのにみながしゅんと大人しくなってしまうほどの威厳があるのだ。
「いやあ、分け藤ねえさんには敵わない。」と大店の主人衆は
そう言いながら鼻の下を伸ばして小判をちゃーりんちゃりん。
「本日もお買い上げありがとうござーい。」
分け藤は今日も商売繁盛。

商売は分け藤ねえさん見たさに大店のご主人がやって来るのが普通だが
たまには依頼された商品を直接お得意さんへ持って行く事もある。
クヘエも今までにイロイロな場所へ届けに行った。
ある春の日の昼下がりのこと・・・
「クヘエや、お得意さんのご依頼の品が手に入ったから届けておくれな。」
と分け藤ねえさんが例のごとくスッと音もなしに商品の埃を払っているクヘエに近づいて来た。
「へい。どちら様まで。」
「サコンジさまのお屋敷さ。」
「・・・・。」
一瞬顔をいぶかしげた分け藤ねえさん、それからスグに納得したようにくすりと微笑んだ。
「おまえ、あのお屋敷に行くのが怖いんだね。そうだろう。」
クヘエが何も答えずにモジモジしていると
「あれはただの噂だよ。サコンジさまはとってもお優しい方だから安心をし。」

サコンジさまのお屋敷は町屋からちょっとはずれた竹林の中にある。
鬱蒼と茂る竹林にお屋敷はすっぽりと隠れていて外からはどうなっているのかわからない。
「サコンジさまが探されていた茶器がようやく手に入ったのさ。」
と淡い若緑色の風呂敷で包まれた箱を渡された。
「おやおやまだそんな顔をして・・・。大丈夫だって言っただろ。
この分け藤ねえさんがそう言ってるんだ。さあ行っておいでな。」
クヘエは正直怖くて仕方がなかったけど
今まで分け藤ねえさんが言ったことに嘘はひとつもなかった。
怖さを振り払うようにブルブルブルっと身体を震わせると
「へい。それでは行ってまいります。」と元気よく答えた。


「あ、それからね・・・、この包みも一緒に持って行っておくれ。」
分け藤ねえさんはそう言うと棚の奥から依頼の茶器が入っている箱より
一回り小さ目の箱を取り出した。

「いいかい、サコンジさまは必ずオマエに『おや、それも売り物かの。
どれ、私に見せてごらん。気に入ったらそれも購入しようじゃないか。』と言ってくるだろうよ。
そしたら『相スミマセン、あいにくこちらの品はすでに買い手が決まっておりますんで。』と
お断りするんだ。わかったかい?」

「では、サコンジさまの後にもう一軒お得意さまをまわりますんで?」

「そんなお得意さんなんていやしないさ。」

「はあ・・・。」
とクヘエが困惑していると

「オマエはね、私が言ったことをただサコンジさまに伝えればいいのだよ。」
そう言うと分け藤ねえさんは藤色の風呂敷にその箱を包むとクヘエに渡した。
「いいかい、忘れるんじゃないよ。」



サコンジさまのお屋敷はみんなから化け物屋敷と呼ばれている。
酔っ払ってお屋敷の近くを歩いていた人が火の玉を見てその後寝込んでしまったとか
風もないのに竹林だけがさわさわと揺れていたとか・・・。
いつの頃からか「あのお屋敷には化け物が住んでいる。」と噂されるようになった。
そして何よりも・・・誰一人としてサコンジさまの姿を見た者はいないのだ。
今日は春にしてはとても蒸し暑い日だった。
サコンジさまのお屋敷の前に広がる竹林に着いたクヘエは手ぬぐいでしたたる汗をぬぐい、
ふうううっと呼吸をひとつ整えた。
「分け藤ねえさんが大丈夫だって言ったんだもの。絶対に大丈夫だ。」
クヘエは自分自身に言い聞かせてお屋敷の玄関へと続く道を一歩一歩踏みしめるように
歩いて行った。

サコンジさまのお屋敷はクヘエが思い描いていたモノとだいぶ違っていた。
クヘエは勝手に噂通りの朽ち果てた武家屋敷を想像していたのだが
目の前にあるのはどこかの大店のご隠居さんの佇まいという感じであった。
まるで鄙びた田舎にでも来たようでクヘエはほうっと安堵した。

しかしその安堵も一瞬のことでクヘエはまた恐ろしさにヒザがガクガクし始めた。
「大丈夫、大丈夫・・・。」もう一度自分に言い聞かせ、
「ごめんください。分け藤の使いの者でございます。ご注文の品、お届けに参りました。」
と大声で呼びかけた。


しばらくすると遠くからぱたぱたと廊下を歩いてくる音がした。
「お、分け藤の。よう参られた。」
頭を下げているクヘエの目に真っ白な足袋の先が見えた。
「ささっ、遠慮はいらん。中にお上がんなさい。」
「へい。では上がらせていただきます。」
こんな立派なお屋敷なのに奉公人はいないのだろうか。
不思議に思いながらもクヘエは白い足袋の後について中へ入った。

そこがサコンジさまの居間なのだろう。
ほんの少しだけ目を上に上げると床の間に見事な藤の花が活けてあった。
廊下でモジモジしていると
「そんなところにいては注文の品が見れないではないか。
さ、遠慮はいらぬ。中に入りなさい。」
「へい。かしこまりました。」
クヘエは風呂敷を頭の前に持ち上げながらするりするりとヒザを進めて居間へと入り、
恐る恐る顔を上げてみた。

「遠いところ、ご苦労であったな。」
クヘエの目の前にはクヘエが今までに見たこともない美しい男の人が背筋をスッと伸ばして
座っていた。
眉目秀麗とはサコンジさまのためにある言葉なのではないだろうか。
自分が育った裏長屋の怪しい祈祷師のジョウゲンさんや左官のカンシチさん、
それに鋳掛屋の自分のおとっちゃん・・・
果たしてサコンジさまはこれらの類と同じニンゲンなのかと首をかしげたくなるほど美しかった。
「私の顔に何かついているかな。」
サコンジさまがクヘエの顔を覗き込むように問いかけていた。
「あっ、いえ、あのっ、コチラがご注文の品でございます。」
と我に返り、風呂敷をほどき茶器の入った箱をサコンジさまの膝元へスッと近づけた。
「どれどれ・・・。」
とサコンジさまは箱を手に取りフタを開けて中身を取り出した。
その作法ひとつひとつの美しいこと・・・。
クヘエはサコンジさまの一連の手の動きにボーっとしてしまったほどだ。
「さすがは分け藤さんだ。しかしよく見つけてくれたものだねぇ。」
サコンジさまは依頼の茶器が余程に気に入ったのだろう、ためすがめつ見ていた。
クヘエはそんなサコンジさまの美しい横顔に魅入っていた。


どれくらい時が経ったのだろう・・・ふと我に返ると
サコンジさまの切れ長の目がもうひとつの包みを凝視していた。
そして。
「おや、それも売り物かの。どれ、私に見せてごらん。
気に入ったらそれも購入しようじゃないか。」

クヘエの手のひらからどっと汗が吹き出てきた。
心ノ蔵がバクバク鳴っている。
本当だ。分け藤ねえさんの言った通りにサコンジさまは訊いてきた。
クヘエはサコンジさまに気付かれるんじゃないかと息が詰まりそうになった。
「ん、どうしたのだ。見せてみなさい。」
「あ、あ、相すみません、あいにくこちらの品はすでに買い手が決まっておりますんで・・・。」
やっとの思いでクヘエが言い終わると
あろうことかサコンジさまは声も高らかに笑い出した。
「あはは、分け藤さんにそう言うように言い付かったのだろう?
それがいつもの分け藤さんの手なのさ。
人は手に入らないとわかるとますます欲しくなるからねぇ。
分け藤さんはそうやっていつも人の欲のヒダを賑わせるのだよ。
さあ、見せてごらんなさい。」
サコンジさまが手を伸ばしてその包みを手に取ろうとした。

クヘエは自分でもなぜそんなコトをしたのかわからない。
「相スミマセンがこちらはどうしてもお見せするワケには参りませんで。」
と、その包みを自分の懐にぎうっと抱え、気がつくとサコンジさまのお屋敷を飛び出していた。
お屋敷まで歩いてきた道を逆方向にむかって夢中になって走り出した。
途中恐怖のあまりに足がもつれて転びそうになりながらそれでも走る走るクヘエ。
走って走って走って・・・どれくらい走ったのだろう・・・・


・・・気がつくとクヘイは汚い夜着に包まって寝かされていた。
「おやクヘエ、気がついたのかい。」
目の前には涙と鼻水でグチャグチャになったおっかさんの顔があった。
その後ろでは妹のオユウと弟のショウキチが心配そうにひとつにかたまっていた。
「おいら、どうしてここに?」

おっかさんの話によると3日前から原因不明の高熱でウンウンうなされていたらしい。
「あんた、明日から奉公にあがるのが嫌で熱を出しちまったのかい。」とおっかさん。
「奉公?分け藤ねえさんは?」
「分け藤?オマエ何をわけのわかんない事を言っておいでさ。
熱で頭がおかしくなっちまったようだ。」
「ちょっと。」
クヘエはそう言うなり夜着を跳ね除けると外へ飛び出した。
「あ、クヘエや、お待ちっ。」
おっかさんの声を遠くにききながらクヘエは夢中で分け藤まで走って行った。
おかしいのはおっかさんの方じゃないか。
おいらは分け藤さんでもう奉公しているじゃないか。


分け藤のあった場所に着くとクヘエは愕然とした。
そこには大きな藤の木が二本、根元からお互いにしっかりと絡まり合い、天高くそびえていた。
藤の木の根元に目をやるとそこに小さな石碑が幹にかくれるようにしてひっそりと佇んでいた。

「左近時藤」

クヘエは仮名は近所のお師匠さんに習ったからなんとか読めるのだが、
石碑に書いてある文字は難しすぎて何て書いてあるのかはわからなかった。
でもなんとなく懐かしくて、その文字を指で何度もなぞってみた。

「坊もこの藤の花が好きかい。」
いつの間にか品のいい老人がクヘエのヨコに立って藤の花を見上げていた。
クヘエは何が何だかわからずにぼーっとその老人を見上げていると、
「昔この場所には遊郭があってね、サコンジさまというお旗本がお藤という遊女と
相対死をしたのだよ。」

「あの時は廓中が、いやここいら全部が大騒ぎになったものさ。」
クヘエはまだ何が何だかわからない。
えーと、サコンジさまというお旗本とお藤さんという遊女。

「サコンジさまってぇお旗本は歌舞伎役者にしてもいいような男振りだったという話だよ。」
その瞬間、クヘエの背筋にぞっと冷たいモノが走った。

「しかしね、坊よ、お旗本のサコンジさまはお亡くなりになったがお藤さんは一命を取り留めてしまったんだよ。」
一命を取り留めたお藤は本来なら遊郭で一生タダ働きか人別帳から人別をはずされる運命だったのだが、お藤の昔からのお客であった大店のご隠居さんがお役人にもお店にもかなりの大枚をはたいて自分の隠居所に引き取ったという。

「それからのお藤さんは毎日毎日サコンジさまのお屋敷の方角を見ながら過ごしたそうだよ。」

「それで・・・そのお藤さんはどうなったんですか。」
やっとの思いでクヘエは老人に訊いた。

「詳しい事は誰にもわかっていないのだよ。そのまま病気になって死んでしまったとか、狂い死んだとか。噂されたけれどもね。」

「わしは毎年この藤の花が咲くたびに思うのじゃよ。人にはそれぞれの身の丈にあった生き方があるってね。でも人の気持ちってものは時として本人すらも驚くような突拍子もないことをさせるもんだ。それが道ならぬ恋ときたら尚更じゃろう・・・となあ。」

身の丈に合った生き方か・・・。
クヘエはその老人の言葉を反芻しながら藤の花を見つめた。

振り返るとその老人はもうどこにもいなかった。
慌てふためききょろきょろと辺りを見回すと、藤の木の根元に一枚の風呂敷が落ちていた。
「あっ、分け藤ねえさんの。」急いで根元に駆け寄ってその風呂敷を拾い上げると
突然強い風が吹き藤の花を揺らし始めた。
花びらがあとからあとから落ちてきてクヘエは目も開けていられないほどだった。

「ありがとう・・・。」
「分け藤ねえさん?」

クヘエはその声の主が誰か知りたくて強風に押し潰されそうになりながらなんとか目を開けた。
そこにはサコンジさまにぴったりと寄り添う分け藤ねえさんがいた。
二人は絡まる木の幹の中に消えていった。


あれからどれくらいの時が経ったのだろう。
クヘエは一人前の手代としてある大店に奉公している。
毎年藤の花の季節が来るたびに分け藤ねえさんのコトを思い出す。
「あれは夢だったのだろうか。」
クヘエには分け藤で働いていた頃の自分がまるで昨日のことのように鮮明に思い出せるのだ。
熱にウンウンとうなされて三日三晩生死を彷徨ったにしては長過ぎる記憶なのである。
きっとあのもうひとつの箱の中には分け藤ねえさんの魂が入っていたんだと思う。
分け藤ねえさんは自分だけ助かってしまったコトが、
サコンジさまと一緒に死をもって想いを遂げることが出来なかったことが・・・
悲しくてやりきれなかったんだ。
その深い悲しみがあの箱の中に・・・。

だったらどうして分け藤ねえさんはサコンジさまに見せてはいけないって言ったんだろう・・・。
「身の丈に合った生き方か・・・。」
あの日、藤の木の下で反芻した言葉をもう何度となく心の中で繰り返し今日まで生きてきた
クヘエ。
身の丈に合った生き方は人生をツツガナク送れるかもしれないが、
自分のココロに正直な男サコンジさまの生き方が、
ちょっと羨ましい気もするクヘエなのであった。
「おうい、クヘエや。」お店から番頭さんがクヘエを呼ぶ声がする。
「へい。ただいま。」クヘエは大きな声を出して今来た廊下を戻って行った。




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ボクの身の丈は・・・。

キミは「丈」じゃなくて「幅」。

by ruggine | 2012-04-30 00:13 | ひとりごと  

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